EDIコラム「ファームバンキングとEDI連携強化で実現するISO20022対応とDX推進」(2025/7/4更新)

ファームバンキングを利用する企業は、INSネット「ディジタル通信モード」の終了に伴い、通信回線のIP網・インターネットへの移行と、ISO20022対応を含めたシステムや業務プロセスの見直しを、2025年11月までに計画的に進める必要があります。
本コラムでは、このような環境変化の中で、ファームバンキングとEDIの対応方針について考察します。
ISDN回線サービス「INSネット」の「ディジタル通信モード」は、2024年1月から地域ごとに段階的にサービスを終了しました。これにより、従来この回線を利用してEDI取引を行っていた企業では、通信インフラの見直しが急務となっています。また、取引先とのEDI通信だけでなく、いわゆる「銀行取引のEDI」に該当するファームバンキングについても、新たな仕組みへの移行が求められています。
なお、「ディジタル通信モード」のサービス終了に合わせて「切替後のINSネット上のデータ通信(補完策)」が提供されていますが、伝送遅延が生じ処理時間が増大するなど従来と同等の品質は保証されないため、早期の代替サービスへの移行が推奨されます。
ファームバンキングは、専用回線や専用端末・ソフトウェアを用いて、金融機関とユーザー企業のコンピュータシステムとを直接接続して行うデータ通信サービスです。これを利用することで、ユーザー企業は振替・振込や残高照会などのサービスを、自社内の端末で受けることができます。
従来、ファームバンキングでは「全銀TCP/IP手順」という通信プロトコルが利用されてきましたが、2017年には「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」、いわゆる「広域IP網版全銀手順」が公開されました。この新しい方式では、従来の全銀TCP/IP手順をインターネット経由でも利用できるように、暗号化や認証などのセキュリティ規定が追加されています。
通信プロトコル自体は従来方式を継承できますが、INSネットのディジタル通信モードが終了したことにより、従来通りの通信回線は利用できなくなりました。そのため、ファームバンキングの仕組みも新たな通信インフラへの移行や見直しが急務となっています。
ファームバンキングのシステムを再構築する際は、従来通り閉域網での運用が求められます。IP網への移行後は、従来のISDN回線よりも高速かつ安定した通信環境が実現できるため、業務効率の向上が期待されます。また、障害発生時の迅速な復旧体制も重要です。
さらに、複数の金融機関との取引設定の手間を軽減できる仕組みや、従来のファームバンキングで利用できた機能を継承できることも、移行先選定のポイントとなります。金融機関ごとに個別の接続インターフェースを開発する必要が生じると、コストや工数が増大するため、通信インフラの選定や運用面の検討も欠かせません。
こうした課題を解決するには、閉域IP網を活用したソリューションの導入が有効です。たとえば、NTTデータが提供するファイル伝送サービス「AnserDATAPORT(アンサーデータポート)」は、企業と金融機関間の安全なデータ伝送を実現し、全銀協標準通信プロトコル(全銀TCP/IP手順・広域IP網)や任意フォーマットのデータ伝送にも対応しています。独自の閉域IP網「Connecure(コネキュア)」を利用することで、銀行ごとに個別回線を敷設する必要がなく、複数金融機関との効率的な接続が可能です。
このサービスを利用する場合、取引先金融機関が対応しているかの事前確認が必要ですが、メガバンクをはじめ対応金融機関は拡大しています。AnserDATAPORTでは、INSネットと比較して伝送時間を大幅に短縮でき、従来約8時間かかっていたデータ伝送が30分程度で完了します。これにより、決済遅延や決済不能リスクが大幅に軽減されます。また、障害発生時には自動的にバックアップ回線へ切り替え、復旧後はメイン回線に戻る仕組みや、災害時にはバックアップセンターでの業務継続も可能です。IP-VPNによる常時接続により、INSネットや固定電話と比較して通信の信頼性も向上しています。
AnserDATAPORTの概要(資料提供:株式会社NTTデータ)
2025年11月までに、外国送金業務などで利用されるファームバンキングのEDIシステムは、国際標準規格ISO20022への対応が求められています。ISO20022は、金融取引に関する通信メッセージの国際標準規格であり、従来のMTフォーマットに比べて、より多くの情報をXML形式で柔軟かつ詳細に記述できる点が特徴です。この移行により、外国送金データのフォーマットがISO20022に準拠したXML形式へ変更され、データ項目も大幅に増加します。また、送金データの送信手順も従来の全銀手順から、ISO20022対応のJX手順など新しい通信手順へ変更する必要があります。
これに伴い、各企業は自社のEDIシステムや関連業務プロセスの見直し、システム改修、データ変換処理の追加など、広範な対応が求められます。特に、送金データの項目追加や変換内容は取引先金融機関ごとに異なる場合があるため、各金融機関の対応状況を事前に確認し、自社で必要となる要件や改修範囲を明確にすることが重要です。
さらに、ISO20022対応のファームバンキングサービスや変換ソリューションを活用することで、システム改修の負担や移行作業の工数を軽減し、短期間での対応が可能となります。新フォーマットへの移行によって、送金処理の迅速化や情報の高度化、データの自動消込など業務効率の向上も期待されます。
移行期限が迫る中、早期に対応方針を決定し、金融機関やサービスベンダーと連携しながら、計画的な移行作業を進めることが求められます。
AnserDATAPORTと統合EDIサービスを組み合わせることで、より運用負荷を軽減できます。統合EDIサービスは、EDI関連のシステム連携基盤であり、さまざまな形式のEDI通信プロトコルに対応したデータ通信や、基幹システム内の販売先、仕入先、物流・工場、金融機関などに関する各種データとの接続機能を提供します。これにより、一つのサービスで複数種類の電子データのやり取りをまとめて管理することが可能となります。EDIサーバを自社で構築・運用するよりも、統合EDIサービス経由でAnserDATAPORTのような金融機関向けの仕組みと接続することで、全体の運用負担とコストが減少し、障害の切り分けポイントも減らすことができます。
例えば、SCSKが提供する統合EDIサービス「スマクラ」は、長年の運用実績を持ち、高品質かつコストバランスに優れた全業種・業界対応のクラウドサービスです。また、「スマクラ AnserDATAPORT接続サービス」を活用することで、容易にAnserDATAPORTと連携できます。
統合EDIサービスとファイル伝送サービスの組み合わせ例
スマクラ AnserDATAPORT接続サービスでは、Connecure接続についてSCSKで開通済みの回線を用意し、敷設・運用もSCSKが実施するため、自社での手配より開通手続きが迅速で、運用の手間もかかりません。独自システムとAnserDATAPORTを直接接続した場合に発生するNTTデータへの接続費用も、スマクラ AnserDATAPORT接続サービスでは不要です。さらに、24時間365日の運用体制とEDI専門要員によるサポートにより、自社構築・運用時と比べて障害対応などの負担も大幅に軽減できます。
加えて、スマクラ AnserDATAPORT接続サービスは外国送金のISO20022にも対応しており、ISO20022対応オプションを利用することで、2025年11月の対応期限に向けた外国送金業務の要件を満たすことができます。スマクラへは従来通り固定長フォーマットのままデータを送信でき、スマクラ側でISO20022準拠のXML形式への変換が自動的に行われます。これにより、基幹システム側で複雑なXML対応を行う必要がなく、現行システムの改修負担を大幅に軽減できます。また、新しい固定長フォーマットについては、SCSKの汎用テンプレートをベースに個別検討が可能なため、短期間でお客様ごとに最適な新フォーマットを作成することが可能です。
このように、高性能なファイル伝送サービスとクラウド型統合EDIサービスの組み合わせは、基幹系システムとの連携を含め、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するうえで、重要な経営基盤となり得ます。