調達DXコラム「「誰から買っているか」だけでは捉えにくいサプライチェーンリスク」(2026/11/6)

価格、品質、納期など、直接の取引先との取引に問題が見られなくても、その先にある企業や品目で供給制約が発生すれば、自社の調達や生産に影響が及ぶ可能性があります。
では、調達部門は、直接の取引先の先にあるこうしたリスクを、どこまで把握できているでしょうか。
日本銀行のワーキングペーパー「企業間取引データを用いたわが国製造業サプライチェーンの可視化」(2026年8月公表)では、企業間取引データと製造品目データを活用して、日本の製造業サプライチェーンの構造を分析しています。
この論文で示されたこと
●日本の製造業には、多くの企業や品目がつながる重層的かつ広範なサプライチェーンが形成されている
●特に自動車を含む輸送機械は、サプライチェーンの長さや裾野の広さが際立っている
●サプライチェーン上には、供給制約が生じた場合に広範囲へ影響を及ぼし得る「ボトルネック品目」が存在する
●シミュレーションでは、ボトルネック品目の供給制約が製造業全体の生産を下押しし得る
サプライチェーンは想像以上に広く、深くつながっている
同論文では、2025年時点の資本金5,000万円以上の製造業の企業間取引データなどをもとに、13,013社、2,056品目、1,105,563件の企業間品目取引からなる生産ネットワークを構築し、日本の製造業のサプライチェーン構造を分析しています。
サプライチェーンは、単純な「企業と企業」の関係だけではなく、さまざまな企業と品目が複雑につながるネットワークとして形成されています。特に自動車を含む輸送機械では、その長さや裾野の広さが際立っています。
調達部門が日常的に接する直接の取引先の先にも、多くの企業や品目が連なっています。調達リスクを考えるうえでは、その先にある企業や品目とのつながりにも目を向けることが重要です。
なお、同論文の分析は国内製造業の企業間取引が対象で、海外との取引は含まれていません。また、卸売商社など非製造業を経由する取引ではネットワークが途切れます。そのため、業種によってはサプライチェーンのつながりや長さが過小評価されている可能性があります。同論文で示されたネットワークが、個々の企業の実際の調達経路をすべて網羅しているわけではない点にも留意が必要です。
直接取引先の先に潜む、サプライチェーンのボトルネック
同論文の分析結果からは、直接の取引先だけでは捉えきれない、サプライチェーン上のリスクが見えてきます。
その一つとして同論文が注目しているのが、サプライチェーン上の「ボトルネック品目」です。
供給制約が生じた際に広範な影響を及ぼし得る品目を、一定の定量条件に基づいて「ボトルネック品目」として識別しています。そのうえで、これらの品目の供給制約が製造業全体へ及ぼす潜在的な影響を分析しています。
具体的には、サプライチェーン上の要所に位置する度合い、特定企業の当該品目における出荷額シェア、出荷価格のばらつきから捉えた品目の異質性という3つの観点から、ボトルネックとなり得る品目を絞り込んでいます。
ただし、これは同論文で設定された定量的な条件に基づく識別であり、識別された品目が、すべての企業にとって一律に代替困難であることを意味するものではありません。
同論文では、286社が製造する321品目がボトルネック品目として識別されており、電機・IT、一般機械、化学、金属などの業種に多くみられます。
具体例として、集積回路やピストンリングなどの品目が挙げられています。また、半導体や電子部品の製造に用いられる原材料・部材関連の品目も多くみられます。
このように、ボトルネック品目は、直接の取引関係だけでは見えにくい、サプライチェーン上の要所となり得る品目です。
では、こうしたボトルネック品目で供給制約が生じた場合、その影響はどのように広がるのでしょうか。

1品目の供給制約が、広範囲へ波及し得る
同論文では、品目間や供給者間で短期的な代替調達を行うことが難しいと仮定し、ボトルネック品目の生産が半減した状態の継続期間を月単位で変えながら、製造業全体の生産へどのような影響が及ぶかをシミュレーションしています。
その結果、ボトルネック品目は、その他の品目よりも製造業全体の生産に及ぼす潜在的な影響が大きいことが示されています。
また、製造業全体の生産減少率の中央値をみると、供給制約の発生後、在庫が生産への影響を緩和する効果は4か月程度にわたってみられます。
一方、生産減少率の分布の下位5%タイルに当たる影響の大きいケースでは、2か月目に在庫による緩和効果が剥落し、生産の減少が生じる結果となっています。
業種別にみると、輸送機械は、ボトルネック品目となる中間財が比較的少ない一方、ボトルネック品目の供給制約による影響を最も受けやすいことが示されています。これは、輸送機械のサプライチェーンの裾野が広く、幅広い業種から部品の供給を受けていることが背景にあると考えられています。

ただし、これらは特定の企業・品目の生産を一定期間50%減少させるなどの仮定に基づくシミュレーション結果です。そのため、実際の企業に一律に4か月の猶予があることを意味するものではありません。在庫による緩和効果は、企業や品目の在庫水準、供給制約の内容などによって異なります。また、このシミュレーションでは、輸入や商社からの仕入れなど、標本企業以外からの調達は存在しないことを仮定しています。
こうした結果を調達実務に置き換えると、影響の大きさは直接取引の有無だけでは判断できず、品目の代替可能性や供給制約の波及経路も含めて確認する必要があると考えられます。
では、こうした見えにくい依存関係やリスクを、調達部門はどのように捉えていけばよいのでしょうか。
調達部門に求められる視点と、4つの確認観点
調達業務では、例えば次のような情報を日常的に確認・管理しています。
●誰から買っているか
●いくらで買っているか
●品質に問題はないか
●納期は守られているか
●契約条件は適切か
これらの情報の管理は、今後も調達業務の基本となります。
ここからは、同論文の分析結果を踏まえ、調達実務の視点からスマクラ独自の考察を示します。
サプライチェーンリスクへの対応を進めるうえでは、従来の「取引先を管理する」という役割に加えて、「自社がどの企業・品目に依存しているかを把握する」という視点も、調達部門にとって重要だと考えられます。
その際、すべての取引先を一律に確認するのではなく、自社の生産や事業への影響が大きい品目から、取引先や地域などへの依存状況を確認していくことが考えられます。
具体的な確認観点として、次の4つが挙げられます。
●調達の集中度: 特定のサプライヤーや地域に調達が集中していないか
●代替調達の可能性: 代替先が存在するか、切り替えにどの程度の期間が必要か
●在庫と供給継続性: 供給が止まった場合、在庫でどの程度対応できるか
●事業への影響: 欠品した場合、どの製品や生産ラインに影響が及ぶか

こうした観点から自社の調達状況を見直すことで、より詳しく確認すべき品目や、特定の取引先・地域などへの依存状況を整理しやすくなります。必要に応じて、直接取引先だけでなく、その先にある企業や品目へと確認範囲を広げていくことも考えられます。
直接取引先の情報整理を、依存関係を考える第一歩に
「自社がどの企業・品目に依存しているのか」を把握するには、その前提として、自社が誰から何を調達し、どのような取引をしているのかを確認できる状態が必要です。
その第一歩として、自社内に分散しているサプライヤー情報や取引情報を整理し、必要なときに横断的に参照できる状態を整えることが考えられます。
●サプライヤーの企業・担当者情報
●見積・選定・契約に関する情報
●発注・納期回答・納品・検収・支払などの取引情報
●BCP・環境などのサプライヤー調査情報
●サプライヤーとの問い合わせ・コミュニケーション情報
こうした情報が部門やシステムごとに分散していると、直接取引先との関係や取引状況を横断的に把握することは容易ではありません。
こうした情報のうち、企業間の取引情報を管理する手段の一つとして、スマクラBDX 調達購買Webでは、見積、発注、納期回答、納品など、調達・購買業務における企業間のやり取りをデジタル化し、取引情報を把握しやすい環境づくりを支援します。
日々の取引情報を必要なときに確認できる状態を整えることは、自社と直接取引先との取引状況を把握し、調達上の依存関係やリスクを検討していくための基礎となります。
ただし、直接取引先の情報を整理・蓄積するだけで、その先を含むサプライチェーン全体のつながりや、同論文で識別されたようなボトルネック品目まで把握できるわけではありません。
より広い依存関係を把握していくには、直接取引先の先にある企業・品目に関する情報を収集し、代替調達の可能性や供給制約の波及経路などを追加的に分析する必要があります。
調達DXで重要なのは、「誰から買っているか」を把握するだけでなく、蓄積した情報をもとに、自社がどの企業・品目に依存しているのかを捉え、調達リスクの把握や対応策の検討につなげていくことです。
出典
「企業間取引データを用いたわが国製造業サプライチェーンの可視化」
日本銀行ワーキングペーパーシリーズ
2026年8月
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2026/wp26j09.htm
※本稿のうち、日本銀行ワーキングペーパーに関する記載は同資料を参考に作成しています。なお、同資料の内容や意見は執筆者個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
また、自社がどの企業・品目に依存しているかを把握するという視点や、調達実務・調達DXへの展開、スマクラBDX 調達購買Webの紹介は、同資料の分析結果を踏まえたスマクラ独自の考察・提案であり、同資料で示されたものではありません。

