JMACコラム「【これからの調達・購買のあり方】調達戦略と調達インフラ」(2024/5/7更新)

JMACコラム「【これからの調達・購買のあり方】調達戦略と調達インフラ」
筆者:加賀美行彦 株式会社日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント
開発・調達・生産管理・生産の領域において、短中期的なトータルコストリダクションや生産システム改革、及び技術力向上、人材育成、システム構築などの中長期的な体質強化に関するコンサルティングを行っている。また、近年では、設備調達や工事調達のコンサルティングも増えている。
業界としては、自動車部品、家電、電機、住宅・住宅部材、建材、設備、製薬、化粧品、食品、飲料の他、医療用機器、等の製造業及び電力、建設等のインフラ業界を中心に幅広く経験をしている。米国、欧州、ロシア、トルコ、中国、韓国、タイ、ベトナム、シンガポール、等海外での経験も豊富。2007年度に立ち上がったJMA主催の購買・調達資格(CPP)の企画委員として参画。
株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)ホームページはこちら

前回コラムでは、調達を取巻く環境と調達の役割を取り上げました。

今回は、その調達の役割を高い次元で発揮するためにどのような改革を進めるべきなのか、その考え方を紹介します。

最初に調達競争力強化のフレームワークをご紹介し、調達機能強化に重要な調達インフラの位置づけを示します。続いて、調達インフラの概要をご紹介し、最後に、調達インフラ整備の考え方を解説します。

調達競争力強化のフレームワーク

調達競争力とは、前回コラムで取り上げた調達のミッションである「公平・公正・透明な取引を通じ、高いレベルのQCDとその安定調達」の実現に向けて現状を変革していく力を指します。調達のミッションを実現するには、取り巻く環境を踏まえて、適切な調達戦略を実行していく必要があります。しかしながら、取り巻く環境は厳しさを増しているので、調達戦略のレベル自体を高めていくことも必要です。調達戦略のレベルを上げるには、調達内部の実力を高める必要があり、そのためには調達インフラ整備が重要です。

この考え方をJMACでは調達競争力強化のフレームワークと呼び、下図のようにまとめています。

図の右上に記載しているのが調達ミッションですが、より具体的には調達部門の目標があるとお考え下さい。目標に対して、左下に現状のポジションがあります。現状のポジションを目標のポジションに引き上げていくための施策として、調達戦略を打つことになります。

近年は、取り巻く環境の厳しさが増しているので、現状と目標の距離感が以前よりも離れているわけなので、調達戦略自体をレベルアップさせないと、なかなか目標に届かない状況になっています。

調達戦略のレベルアップに必要なのは、縦軸の競争環境構築力と横軸の購買評価・実行力です。

競争環境構築力とは、「世の中のQCD水準を広く知り、競争環境を築ける力量」です。サプライヤーから良い提案を引き出すために、グローバルの調達市場から競争力のあるサプライヤーを探索し、適切に競争をしてもらうための環境が作れることを指します。

購買評価・実行力とは、「競争力のあるQCDを査定し、目標達成する施策を実行できる力量」です。調達するもののQCDを様々な情報に基づき査定し、目標との間にギャップがある場合にはそのギャップを解消する施策を立案・実行できることを指します。

図の青い背景部分は、競争購買・査定購買・開発購買という3つの領域に分けられていますが、これらは調達戦略の基本アプローチであり、競争購買→査定購買→開発購買と戦略レベルを高めることを示しています。

つまり、縦軸と横軸の領域をそれぞれ強化することで、アプローチレベルが高まるということです。

一方、縦軸と横軸に示した力量は、調達担当者個人に任せるべきではなく、調達組織としての力量を高めていくことが重要です。そのために必要なのは、図の下段に挙げられている調達インフラを強化することです。調達インフラは、6本の柱で示されていますが、これらが組織的な調達改革を進めるための切り口です。

調調達競争力強化のフレームワーク

つまり、調達インフラ整備を進めることが、調達戦略のレベルを引き上げるための縦軸と横軸に示される2つの力量強化につながり、その結果としてより高いレベルの目標を達成することができるという考え方です。

この考え方の特徴は、図上段の青い背景部にある調達戦略と下段部の調達インフラを明確に二分し、それぞれの実行計画を策定して推進すること謳っていることです。調達部門において目標がない企業は少なく、上段の調達戦略に関する取組みは何らか行われているのが一般的です。しかしながら、目標未達が続くこともあるにも関わらず、あまり施策内容を変化させずに継続している企業も少なくありません。目標未達の要因には、調達戦略のレベルアップができていないことがあり、そこには調達インフラ整備が必要であることを強調したいと思います。

調達インフラとは

では、調達インフラとはどのような内容なのでしょうか?

以下に、各調達インフラの概要と、調達先進企業の取組み水準をご紹介します。

調達企画機能の強化

調達企画機能とは、調達競争力強化を図り経営貢献度を高めるために、調達の強みや弱みを分析し、強みを伸ばす・弱みを補完するための取組みを企画していく機能です。先進企業では、長期的な環境動向に対して現在の実力値を見て課題を抽出し、その課題解決に向けた取組みを企画し推進しています。

調達組織・体制の整備

調達の経営貢献度を高める機能発揮に必要な組織体制を整備することです。不足している機能を新設することもありますが、現行機能の強化に向けて増員をしたり、体制変更をしたりすることが含まれます。先進企業では、サプライチェーン強化目標の達成に向けて、フレキシブルに体制構築をすることができています。

マネジメントプロセスの徹底

事業目標の達成に向けて、調達の役割を果たすためには、マネジメントが必要なのは言うまでもありません。そのマネジメントプロセスのレベルアップと徹底を図ることです。特に、調達は外部環境の影響やサプライヤーの対応といった自助努力だけではない要素が絡みます。従って、計画したことをキチンと完遂するだけでなく、途中段階であっても状況に応じて対応をすることが重要です。そのためには、マネジメントサイクルであるPDCAをしっかり回すだけでなく、早く回すこともポイントとなります。

調達プロセスの標準化

調達とは、何を・どこから・どのような条件で・いくらで買うのか を決めて、その決めたことを着実に実行する仕事です。この仕事のプロセス、すなわち仕事を進める手順と判断をする際の判断基準を高いレベルで標準化することが、競争力ある調達の実現には重要です。調達の仕事は、一般的に属人化しやすいと言われています。属人化しているということは、このプロセスが担当者によってバラバラなやり方になっているということであり、組織力を生かせない状態になっているということです。標準化をするには、標準プロセスを決め、標準フォーマットを整備し、判断基準や判断のツールを整備して、データベースを整備して蓄積データの利活用を図ることが具体的な取組みです。

先進企業では、組織力を生かして、迅速に競争力のあるサプライヤーや調達価格決定を行うための標準化やツール整備ができています。

調達情報管理の仕組み構築

調達の仕事は、現物を扱う場面もありますが、より重要なことは情報を扱うということです。例えば、サプライヤー選定でも、新規の有力なサプライヤーを探索したり、評価をしたりするわけですが、その際には情報が必要です。同様に、価格決定でもサプライヤーからの見積り比較をしたり、価格妥当性の査定をしたりするには、情報が必要です。その情報自体に競争力を持たせるには、広い範囲から収集されたものである必要があり、各担当個人が情報収集力には限界があることを考えれば、組織として収集したデータを一元的に蓄積し、利活用できることが重要です。

先進企業では、グローバルに鮮度高い情報が関連各部門と共有できる仕組みが運用されています。

調達スキル向上の仕組み構築

調達インフラ最後の柱は、調達人材のスキル向上の仕組みです。これまで、調達組織の機能を高めることが重要と述べてきましたが、調達組織を構成する各担当のレベルが高いことも重要な要素です。調達インフラとしては、高いスキルを持った調達人材を育成するための仕組みの整備です。高い調達スキルを明確に定義づけし、各担当の水準を評価し、必要な知識や技術を整理し、それを学ぶための場づくりを行います。

先進企業では、調達プロフェッショナルの要件が明確に定義され、各個人の評価がなされるとともに、必要な教育が提供されるようになっています。

調達インフラは非常に多岐に渡ります。一度にすべての整備をすることは難しいので、優先順位を決めて順次進めていくことが重要です。

調達インフラ整備に向けて

それでは、本稿の最後では、調達インフラ整備の考え方を述べます。

前項で調達インフラの概要を紹介しましたが、調達インフラとは仕組みです。仕組み整備で重要なのは、仕組みを活用して何を実現したいのかを先に考えることです。

最初の図で示した通り、調達インフラは調達戦略のレベルアップを支えるためのものです。従って、調達の目標(特に中期目標)の達成に向けて、どのような調達戦略が必要なのか、その調達戦略を実現するために必要な調達インフラの整備は何か、という順で検討することが重要です。

下図に挙げたのは、調達戦略と調達インフラの関係性を整理した事例です。

ここでは、コストダウンに向けた調達戦略を挙げていますが、縦軸にあるようなアプローチをより高度な水準で実施していこうとした場合に、どの調達インフラの整備・高度化が必要になるのかを〇や◎印で示しています。 実際の検討では、この〇や◎印の内容を具体化することが必要です。

調達戦略と調達インフラの関係性を整理した事例

製造業向けスマクラとは

PAGE TOP