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JMACコラム「【これからの調達・購買のあり方】調達を取巻く環境と調達機能に求められること」(2024/4/5更新)

JMACコラム「【これからの調達・購買のあり方】調達を取巻く環境と調達機能に求められること」
筆者:加賀美行彦 株式会社日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント
開発・調達・生産管理・生産の領域において、短中期的なトータルコストリダクションや生産システム改革、及び技術力向上、人材育成、システム構築などの中長期的な体質強化に関するコンサルティングを行っている。また、近年では、設備調達や工事調達のコンサルティングも増えている。
業界としては、自動車部品、家電、電機、住宅・住宅部材、建材、設備、製薬、化粧品、食品、飲料の他、医療用機器、等の製造業及び電力、建設等のインフラ業界を中心に幅広く経験をしている。米国、欧州、ロシア、トルコ、中国、韓国、タイ、ベトナム、シンガポール、等海外での経験も豊富。2007年度に立ち上がったJMA主催の購買・調達資格(CPP)の企画委員として参画。
株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)ホームページはこちら

2024年2月株式市場では史上最高値を更新し、株価は好調です。一方、企業を取り巻く環境は、特にグローバルな動きでは、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻に伴う地政学リスクの発生、半導体やコンテナ逼迫などによる供給の不安定化、様々な資材の値上がりが続いています。更に、国内でも賃金上昇や物流の2024年問題とともに人手不足が顕著になっています。これらの動向は、企業の調達にも影響を及ぼしています。

このような経営環境の下、企業が自社商品の競争力を高め、業績を上げ続けるには調達の重要性は増しています。

本コラムでは、調達に焦点を当て、調達機能を強化するための考え方を紹介していきます。

調達とは?

まず、企業における調達の重要性を確認します。

事業推進をするために必要なものの全てを社内の資源で準備ができる企業はなく、自社に無い事業推進に必要なものは社外から獲得をします。この役割を担うのが調達です。ですので、調達部門の有無に関わらず、調達機能は必ずあります。

企業が社外から調達するものには、製品原価に直課する材料や部品に代表される直接材と、製品原価には直課しないが事業推進に必要な間接材があります。経産省の統計によれば、日本企業の付加価値は業界によっても異なりますが、概ね10~20%程度です。つまり売上の80~90%は直接材・間接材として外部に支出されているということであり、この外部調達費を上手くマネジメントすることは、企業の利益確保・増大に大きな影響を及ぼします。

調達とは?のまとめ

調達のミッション

次に、調達のミッションを確認します。

調達は、事業推進に必要なものを獲得する訳ですから、要求される品質を満足するものを、必要な時に、必要な量、確保しなければなりません。また、業績に影響を及ぼす度合いが大きいので、競争力ある価格で調達することも重要です。更に、調達する際のサプライヤーとの取引では、様々法律が関わりますので、それらを遵守すべきなのは当然です。近年は、企業の社会的責任が強く求められるようになっていますので、それに応えることも必要です。直接取引のあるサプライヤーだけでなく、サプライチェーン全体に渡って、この観点が求められるようになっています。

これらのことを踏まえて、調達のミッションをまとめると以下のように言えるでしょう。

調達のミッションまとめ

公平とはサプライヤーに対する機会の均等、公正とは取引に関わる法規や規範を守ること、透明とは調達に関わる意思決定について内外に説明できることを指します。

このように、調達は様々な守るべきルールを遵守しながら、競争力があって安定的な調達の実現をすることが求められています。

調達を取巻く環境変化と対応方向

それでは、調達が近年直面する環境変化と、それへの対応方向についてみていきましょう。

大別すると次の3つの側面があると言えます。

(1)直接材領域における取組みの高度化
(2)間接材領域への管理範囲の拡大
(3)企業の社会的責任やリスクマネジメントを含めたサステナブル調達への意識の高まり

図は、その3つの側面における環境変化とそれに対する主な対応の方向性をまとめたものです。

環境変化とそれに対する主な対応の方向性のまとめ

(1)直接材領域における取組みの高度化 

1つ目は、直接材調達における取組みの高度化です。

直接材とは、製品に費用を直課する原材料などの品目を指します。特に製造業では一般的に、材料や部品等の原価に占める比率は非常に大きく、経営業績への影響は大きい領域です。そのため、コストダウン(CR)への高い期待があります。しかしながら、近年の調達市場は価格高騰の基調にあります。

また、消費者ニーズ多様化、グローバル動向の変化やリスクの増大が安定調達への脅威増大につながっており、CRを難しくする方向に変化しています。つまり、直接材の領域では、安定調達と同時に、CR目標達成の難度が高まっており、取組みの内容や施策自体をより高度化することが必要になっています。

図中では、青い軸に沿って集中化・グローバル最適化・サプライヤー再編・査定購買・内外作見直し・開発購買・アライアンス戦略などのキーワードが挙げられています。これらの取組みの深化や適用範囲の拡大が求められています。

(2)間接材領域への管理範囲の拡大 

2つ目は、直接材のみならず、全方位のCRの一環として、間接材調達にも調達が関与し、責任を持って取り組む動きが拡大していることがあります。

間接材とは、企業の外部支払い費用の内、直接材を除くあらゆる費用のことです。欧米企業では、直接材に限らず間接材を含む外部調達費の管理は、調達が責任を持つことが一般的です。従来、日本企業では、直接材の管理がより重視されてきましたが、近年は欧米企業と同様の考え方が日本でも広がってきています。

このような動きは、従来は個別に調達される傾向が強かった間接材領域において情報集中化を図り、調達業務と調達価格の両面で効率化を実現するだけでなく、コンプライアンスの観点からも望ましいといえます。

間接材の領域には、文房具や事務用什器等の事務用品といったものから、補修、清掃や警備等の役務サービス、設備調達や工場建設といった全く特性の異なる調達品・サービスがあり、調達に集中化することで、それらの領域に必要となる技術やアプローチ法、情報の蓄積も多岐に渡るので、その対応が必要となります。

(3)企業の社会的責任やリスクマネジメントを含めたサステナブル調達への意識の高まり 

3つ目は、近年注目度が高まっている企業の社会的責任(SDGsやESG)やリスクマネジメント、BCP(事業継続計画)に対する取組みです。

調達におけるリスクは多岐に渡りますが、以下の3つに大別できます。

① 環境規制、商取引に関する法規、人権や調達倫理などの法・規制への対応に関わるコンプライアンスリスク
② 地震などの天災や事故、倒産などの供給リスク
③ 日常のQCD(Q:Quality, C:Cost, D:Delivery)を阻害する取引リスク

サステナブルな調達の実践とは、これらのリスクに対して社会的責任のある企業として、調達自身の取り組みとともに、その対応を多くのサプライヤーにいかに浸透させるか、ということです。

図のサステナブルの軸のCSRの側面では、コプライアンス・グリーン調達・公正な調達 と、この領域での各社の取組み内容を記載しています。まず、遵法の取組みがあり、環境を意識した調達活動は既に常識的な取組みとなっている。更に、法律に明記されていなくとも、調達倫理を意識した調達活動の実施に向けて、より積極的で具体的な取組みが進められるようになってきています。

供給リスクへの対応は、リスクへの強靭性とリスク発生時対応の迅速性がポイントです。強靭性の側面では供給拠点の分散化が重要な対策ですが、分散化をするとコストUPとなる側面もあることから、これをいかにバランスさせるかが課題となります。迅速性では、原材料にさかのぼるサプライチェーンを把握することと、リスク発生時の対応方法をあらかじめ決めておき実践できるようにしておくことがポイントです。特に、サプライチェーン把握は難題となっている企業も多いでしょう。

取引リスクについては、そのリスク発生後の対応に追われている企業もよく見かけますが、根本対策をしっかり実施するとともに、未然防止に力を入れていくことがポイントになります。

このように、調達の機能は3次元の方向で拡大しており、いかに適切かつスピーディに対応できるかによって、製品力や収益力などの企業競争力の大きな差として表れるようになっています。調達は、果たすべき役割は大きくなる分を、経営に貢献する機会が増大すると捉えて、調達改革を進め、調達の機能強化を図ることが重要です。

一方、調達の仕事は属人化しやすいと言われています。属人化しているということは、人によって仕事の進め方や判断の仕方が異なるということです。これでは、組織力を生かすことはできませんし、業務の効率も高まりません。調達に求められることが、3次元の方向で拡大している中で、個人の力量で対応しなければならない状態です。やはり全ての担当者がスーパーマンという訳ではないので、調達プロセスの属人性を脱し、組織力を高めることが、調達機能の強化につながっていきます。業務の標準化は、調達の業務改革を進めるためにも重要な視点です。

次回以降のコラムでは、本稿で取り上げた調達が直面する様々な課題に対して、改革の視点や進め方を取り上げていきます。

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