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未来調達研究所コラム「なぜ設計部門に調達データを渡す企業が増えているのか」(2026/10/30)

未来調達研究所コラム「なぜ設計部門に調達データを渡す企業が増えているのか」
筆者:坂口孝則 未来調達研究所株式会社 経営コンサルタント
大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』『結局どうすりゃ、コストは下がるんですか?』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体』(ともに幻冬舎刊)『会社が黒字になるしくみ』『思考停止ビジネス』(ともに徳間書店刊)など20冊を超える。
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「カタログには載ってんじゃん」

「そんなのいまさらいわれても、どうしようもねえよ」。設計者の素直すぎるリアクションだった。私は調達・サプライチェーンのコンサルティングに従業している。さまざまな企業で会議に同席する。発言は「この材料、いま納期40週ですよ」とする調達担当者の発言を受けたものだった。

試作開始の数ヶ月前。メーカーの設計レビュー会議での席上だった。調達部員がその製品のレビューに呼ばれたのははじめてだったようだ。設計者は不機嫌そうな顔だった。「え、だってカタログには載ってんじゃん」とつづけた。

そのとおり。材料の選定時に参考にするカタログには載っている。載っているが、買えないのだ。もっと正確にいうんなら、買えるのは10か月後だってことだけど。特殊材で国内に流通在庫を持つ商社が一社しかない。さらにその一社の在庫はずっと前から大口顧客に枠を押さえられていた。

でも調達担当者だって、事実を伝えただけだ。「~じゃん」って東京育ち丸出しの口調でいわれたって、手に入らないものは手に入らない。誰が悪いという話ではない。むしろ「~じゃん」口調の設計者だって正しく仕事をしている。性能を満たす材料をカタログから選び、公差を決め、図面を描いただけ。手元にある情報の範囲では、何ひとつ間違っていない「じゃん」。

ただ、反省でいえば手元に「調達側の情報」がなかった。毎回、調達部員に連絡するのも現実的じゃないし、非効率的だ。その製品は結局、代替材で再設計されることになったが、評価試験のやり直しに数か月、上市は後ろ倒しせざるをえなかった。

経営コンサルタント 坂口孝則氏

買う段階でコストは下がらない

図面が出て調達部門が相見積をかけて、サプライヤと交渉してコスト低減ができる余地は、製品原価全体の5%ていどだ。統計などあるはずもないが、おそらく調達担当者の肌感覚とも合致するはずだ。

いやもちろん無駄じゃないはず「じゃん」(しつこいので、もうやめる)。5%は大きいのだ。ただ、残りにまったく手を触れずに、その範囲で血みどろの交渉をしているとしたら、それは闘う場所を間違えている。調達人材のチカラのかけかたを再考したほうがいい。

材質の選定、公差の指定、機構の複雑さ、標準品か特注品か。これらが決まった瞬間に、コストのほとんどは固定される。あとから「もっと安くして」といっても、サプライヤにできることは限られる。粗利益を削れば相手の経営を傷める。それに特定の条件にあてはまれば取適法の問題にもつながる。

だから先進的な企業は全体のプロセスを変えはじめている。調達部門がもっている情報を設計の上流に流すのだ。市況価格、サプライヤの製造能力、供給の安定性、リードタイム。これらを、設計者が製品の構想を練ったり作図をはじめたりする前に渡すのだ。

ちなみに、冒頭の40週なる数字は極端じゃない。設計と調達の情報がわかれたままの企業では、出図のあとに同じ種類の問題が繰り返し出てくる。

問題は三つくらいあって、一つは材料が買えないことだ。指定した特殊材の流通量が少なく、価格が高騰しているケースがある。あるいは電子部品でカタログ上は生きているものの、ほとんど流通していなくて市場では死んでいる場合がある。

二つめは、一社しか作れない場合だ。図面の公差や形状が、特定サプライヤの設備でしか加工できないといった事態だ。相見積が取れない。他社が全部「できません」と返してくるので、言い値になる。

三つめが納期遅延。調達リードタイムが数十週におよび、量産立ち上げに間に合わない。

どれも、出図後に発覚すると地獄の手戻りが連鎖していく。図面の修正、再出図。サプライヤの再選定と再見積。そして上市の遅延。ときには不毛な「誰が悪い」といった非生産的な議論が繰り返される。

手戻りの費用もさることながら、時間がもったいないと私は思う。競合より半年遅れて市場に出る製品は、設計がどれだけ優れていても、半年分の売上と先行者の立場を失っちゃう。

出図後に調達上の問題が発覚し、設計の手戻りが発生する流れ

設計は「作れるか」調達は「買えるか」

設計者の能力の問題ではないし、それに調達担当者が無能だからでもない(むしろ会議で指摘している)。設計者と調達者が同床異夢なんだ。

設計者にとって部品は「要求性能と形状を満たす」ものだ。評価されるのは開発納期と設計品質、そして技術の新しさだ。いっぽうで、調達担当者にとって部品は「いつ、誰から、いくらで、買うときにリスクはあるか」という尺度で見る。それに評価されるのはいまだにコスト削減率と納期遅延ゼロである企業は多い。

関心事も、もっている情報も、評価指標も違う。それ自体は当然ともいえる。プロフェッショナルの分業とはそういうものだ。問題は、両者の接点が「出図のあと」にある点だ。設計者は調達側の情報を見たくないんじゃなくて、設計者の手元に存在していないだけだ。よって設計者は「調達しにくい仕様」を無自覚につくっちゃって、調達者は「仕様が固まってから値切る」役割に閉じ込められちゃう。

結果として「技術的に作れる設計」と「安定して経済的に調達できる設計」が一致しない。

設計者が調達データを使わない三つの理由

では、調達側がデータを用意すれば、設計者は使うかというと、そう簡単ではない。設計者が調達データを使わない理由はいくつかある。

一つは、見ている画面が違う点にある。設計者はいつもCADの前に座っている。調達のデータは多くの場合、基幹システムや調達システムのなかにある。別の画面を立ち上げ、いろいろするかっていうと、忙しい設計者がそこまでしない。

二つめは、使っても評価されないことだ。設計者の上司もバカじゃないから、ただただ性能と開発納期だけで評価しない。でも、功績は量産後の原価差異の中に埋もれるし、誰が下げたのかは記録に残らない。合理的に考えれば、余裕をもった性能の材料を選び、調達のことはあとで考える。怠慢っていうより、評価の仕組みがそうさせている。

三つめは、聞くのが面倒なことだ。「この材料、このところの納期状況どう?」と調達側に訊けば、答えは返ってくる。ただし、多忙で翌日になるかもしれない。設計の検討はその一日を待たない。だから訊かずに進める。

ただし、だ。この三つを見ると、解決の方向も見えてくる気がする。データを設計者の画面に出せばいいし、設計によって調達しやすくなったと明らかにすればいいし、調達に聞かなくてもわかる状態にすればいい。

この構造を変えるには、調達部門が設計の上流に顔を出すことだ。もちろん、そんな話は以前からいわれてきた。今回いいたいのは、判断材料をもっていけ、ということだ。

構想設計や基本設計の段階で、設計部門の意思決定をサポートする情報を出す。これは次節で説明するが、ようするに、調達部門の役割は決まった仕様にもとづいて発注し、交渉する部門から変化しないといけない。設計部門の設計時の選択を調達データで支える部門になればいい。

そしてこれは調達だけじゃできないけれど、設計側の評価にも手を入れたい。設計レビューの項目に「推奨部品の採用率」「二社目が確保できる仕様の割合」を入れる。それだけで、調達しやすい設計をした設計者の仕事が、記録に残る。人間は仕組みのとおりに動く。評価システムが変わらない限り、どれだけ良いデータを渡しても使われない。ここは経営層を巻き込んででも変える価値がある。

設計者と調達データの間にある情報活用のギャップ

設計と調達をつなぐ情報とシステム化

それでは何を準備するか。渡すべきデータは四種類と私は思う。

①価格の目安。過去に買った部品の単価(可能なら金型費、設備、治検具等も)を、品目コードではなく、単語で調査できるようにしておく。設計者は調達の品目コードを知らないかもしれない。知っているのは「SUS304」だ。その言葉で検索して価格が出れば、目標原価との差を、作図の前に知れる。

②サプライヤ能力。サプライヤの有する機械設備やサプライヤ拠点別の稼働余力をデータベースだ。さらに欲をいえば加工可能サイズ、成形トン数、得意な工法なんてのもあればいい。設計者はこの制約をふまえて決められる。

③設計段階での調達レビュー。構想設計のレビューと出図前のレビュー、この二つの意思決定の場に調達部門を正式に組み込む。チェックするのは、指定部品が推奨部品リストに沿っているか、二社目のサプライヤが確保できる仕様か、調達リードタイムが上市計画と整合しているか、環境規制に触れる材料が含まれていないか。冒頭のような悲劇をさける。

④設計の部品表と調達の部品表のシステム連携。設計変更が即座に調達側のコスト試算に反映されること。また調達側で検知した供給リスク、たとえば製造中止の情報やリードタイムの長期化が、設計側の部品に警告として戻ること。双方向性が望ましい。

一つレベル上の調達管理として、これらの情報整備と社内に伝達するシステムが必要ではないだろうか。

設計と調達を価格・サプライヤ能力・リードタイム・供給リスクの情報でつなぐイメージ

ところで冒頭の設計者と調達担当者のその後の話だ。再設計が終わったあと、設計者から調達部門に声をかけてきたそうだ。なんだかいい話に聞こえる。だが、これは美談じゃないんじゃないか、と私は思う。だって彼が相談にきたのは、痛い目に遭ったからだ。痛い目に遭わなかった設計者は、相談に来ないわけだ。そして、ちがう設計者とちがう調達担当者が、40週の納期に直面して、またふたたびトラブルが起きるのではないだろうか。

個人の学習と、個人の情報発信に頼るかぎり、おなじことは繰り返されるはずだ。だからこそ、ここにシステム化の余地がある。調達データが設計者の手元にある状態を、仕組み・システムとしてつくってもっておく。設計者がカタログに載っていたから使っただけじゃないか、というまっとうな事情を説明する前に、システムの画面に「国内在庫一社、納期40週」と出しておこう。それができたとき、調達部門は「買う部門」から「設計を支える部門」になるのではないか。

ところで、設計者が声をかけてきたとき、やっぱり「~じゃん」っていっていたのだろうか。こんど、調達担当者に会ったら、それを訊こうと思っている。

調達データを設計部門など社内のさまざまな部門で活用するためには、必要な情報を必要なタイミングで共有できる仕組みづくりも重要です。
スマクラでは、ServiceNowとの連携により、調達・購買業務のさらなるデジタル化を支援しています。
部門を越えたデータ活用や業務改革を検討されている方は、ぜひご覧ください。

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