未来調達研究所コラム「【いま知っておくべき調達・購買を解説】製造業におけるECMとSCM統合によるデータ主導型経営」(2026/6/25)

大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。著書に『調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買実践塾』『だったら、世界一の購買部をつくってみろ!』『The調達・仕入れの基本帳77』『結局どうすりゃ、コストは下がるんですか?』(ともに日刊工業新聞社刊)『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体』(ともに幻冬舎刊)『会社が黒字になるしくみ』『思考停止ビジネス』(ともに徳間書店刊)など20冊を超える。 未来調達研究所株式会社ホームページはこちら
「てめえ、ばかやろう」
いまだに現場でお叱りを受ける。私は調達・サプライチェーンのコンサルティングに従事しているが、現場に寄り添わないとつねに的外れの提案をしてしまう。「おれたちは、どっかの自動車メーカーじゃねえんだ」と。つまりほとんどの会社の悩み事は、高尚なものではなく、もっと現場に根ざしたものだ。部門間のデータ共有が進んでいない、とか。あるいは、システム化が進んでいない、とか。または上流での設計・調達の連携が進んでいない、といった根源的なものだ。
具体的にはこうだ。設計変更が調達に伝わらず、旧図面のまま見積依頼を出してしまう。部品表はエクセル転記の繰り返しで、差分の確認は人の目が頼りだ。サプライヤとのやりとりはメールの往復に埋もれ、回答待ちのあいだに日程がずれていく。笑えない話だが、どの会社にもある光景だろう。この積み重ねが意思決定を遅らせ、原価管理を不確かにしている。
現代の日本の製造業は、労働力不足の深刻化、顧客ニーズの多様化、グローバルサプライチェーンの地政学的リスクや気候変動リスクの増大という複雑な環境変化に直面している。売上高が数兆円レベルのものすごい大企業はまだしも、それ以下の中堅・大規模企業では、限られた経営資源をいかに効率配分し競争力を維持するかが死活問題といえる。さらに、DX推進の最大の障壁が、製品価値を創出する「エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM)」の、データと組織両面の分断といえる。
実際に私が話す感じでも、小規模な企業では、在庫管理や製造コスト適正化など現場の管理関連に課題が集中する。いっぽうで、年商数兆円にはいたらないものの、さきほど述べた中堅・大規模企業で、かつグローバル企業や多拠点を有する場合はどうだろう。その場合、これら基本的な課題は解決されつつあり、複数拠点ゆえの「デジタル化の遅れ」「設計・開発効率の低下」という上流工程の本質的なボトルネック問題が浮上している。

さらに深刻なのが部門間の「課題認識の不一致」だ。経営企画とかDX推進部門はコスト管理や在庫適正化という下流の結果指標に関心を寄せる。それがわかりやすいからだ。管理しやすくもある。ただし、根本原因である上流の設計・開発効率とか調達部門とかの連携やらシナジーへの認識が低い。計測できないし、わかりにくいからだ。
結果、設計・開発部門は設計効率低下と製造とのデータ連携不全に悩んでいる。また、生産現場は設備老朽化や標準化不足を抱えている。そして調達部門は、そのそれぞれと連携したいものの、できずに地団駄を踏んでいる。連携を阻む最大の壁は技術ではない。仕組みの不在だ。仕組みがないから、設計変更は人づてに点で伝わり、調達も生産も後追いで影響を確かめるしかない。それが常態化している。打開には、設計から生産、調達とその外部のサプライヤまでを横断する仕掛けが必要だ。理想では、データのつながりを可視化し、全部門が同一情報基盤で動く仕組みが不可欠だ。
ところで有名な話だが、製品のライフサイクルコストと品質レベルの約80%は企画・設計初期で決まる。仕様確定後、図面作成後の量産調達時点でいくら強烈な相見積書取得や価格交渉を行っても原価低減効果は限定的だ。この限界を破るのが、構想・基本設計の初期から調達部門が設計者やサプライヤと協働する開発購買だ。

調達がもつ市場の実情がある。部材価格の推移、先端の加工技術情報、地政学リスクなどだ。とくに市価や最新の調達リスクなどは調達部門しか情報をもたない。それらを設計にフィードバックしリスクを踏まえた強靭な設計を支援する。
こういう、調達・設計・サプライヤの三位一体の活動によって、①売上向上への寄与が可能だ。たとえば市場投入期間を短縮し、トップ企業としての成長を牽引できる。初期から外部の先端技術や汎用ユニットを織り込み、詳細設計での仕様変更回数を最小化する。競合に先んじて上市できる。
くわえて、②徹底的な原価削減やコストの適正化も可能だろう。サプライヤへ値下げの強要ではなく設計思想そのものを変える。製品ラインナップ全体を見据えた部品の標準化やモジュール化を設計思想に組み込み、量産時の調達数量を爆発的に増やすのだ。種類を減らし、数を増やす。もっとも単純だが、サプライヤも生産量が約束される。もしかすると、専用工程で注力することで、大幅なコスト優位が生まれる。量産開始時点で「もっとも原価競争力のある状態」を作れる。
さらに③サステナブル購買の推進が可能だ。RoHS指令やREACH規則への適合、GHG排出削減、人権配慮は企業存続を左右する最重要な要件といえる。設計段階から環境配慮型素材やリサイクルプラスチック、または現地調達部品を仕様に組み込むことで、環境価値と長期コスト最適化を両立できる。
また、再生エネルギー由来材料の採用は将来の炭素税負担を回避し廃棄処理の二次コストを極小化する。サステナビリティ評価の高い調達体制は供給途絶リスクを分散できる。価格変動下でも供給安定性を高めるだろう。ESG投資やクリーン調達を求める大手取引先に、設計段階から裏付けた排出量データ・法規制適合を示せることは強力な差別化要因となり、取引網の維持と新規顧客獲得につながる。

そこで注目するべきはAIだろう。開発購買が生む「仕様の柔軟性」と「意思決定スピード」を次元の異なるレベルへ引き上げるのが、設計・開発、ならびに調達への生成AIの本格導入だ。
というのも、従来の開発購買は設計者と調達人材のベテラン同士の勘とか暗黙知に依存している。いわゆる属人化だ。AIはこの知的属人性を解放し、高効率な開発購買を可能にする。ただし、その知見を一過性の実験で終わらせてはならない。定着には、設計・調達・生産のデータを統合して扱う基盤が要る。
たとえば効果を上げるのが「類似図面や類似仕様の瞬時提示」と「先入観のない最適形状の自動生成」だろう。AIは過去の膨大なCADデータ、図面や仕様書データを学習し、設計中のコンセプトに類似する過去の図面や部品を即座に提示してくれる。設計者や調達が一から探す無駄を排してくれる。最終的には試作回数も激減させるだろう。人間には想像できない過去の事例を引き出してくれ、最適な構造を提案する例がある。これが製品価値を創出する「エンジニアリングチェーンマネジメント」と物理的供給を担う「サプライチェーンマネジメント」の結合による価値の創造といえるだろう。
なお、変革は設計効率化に留まらない。たとえば、新商品やリニューアル時の最適包装資材量を高精度シミュレーションするモデルを使用して、余剰や無駄を抑える企業がある。製品そのものではなく、周辺にもAIを活用することでコストも時間も削減できる。さらに、商品の販売データを分析したり、企画開発を提案させたりするケースがある。
ただし留意も要る。製造業のAI導入において、本格的に成果を出せている企業は2割ていどにとどまっている。少しやって「成果が出ない」と諦める企業が大半なのだ。しかし実際にはAIといってもただちに成果は出ず、トップダウンで、かつ全社でしつこく取り組む必要がある。人材のノウハウを抽出しなければならないし、データ品質や縦割りを脱却するために協力も必要だ。そこは任命を受けたリーダーが熱情をかけて推進する必要があろう。念のため強調したい。AIは流行の単独テーマではなく、開発購買を高度化する手段である。そして、その手段を組織の仕組みとして根づかせる土台が、次に述べるPLMだ。
ところで最後に書いておきたい。
冒頭のセリフほど乱暴じゃなくても「世の中のほとんどのコンサルタントは馬鹿者だよ」とおっしゃるクライアントがいる。その馬鹿者の意味は「本質をわかっていない」であり、たしかに真の馬鹿者かもしれない。コンサルは企業の組織を分析して問題点を列記する。しかし、そうではない。問題点など組織人はわかっているのだ。ほんとうの課題は、問題を理解している組織人が問題を解決できない点にある。
「設計と生産と調達の連携ができていない」。そんな指摘はウンザリだ。連携できる仕組みと仕掛けを提案してほしい、というわけだ。たとえば設計が変更したら、連絡してください、という設計者への投げかけでは足りない。変更時にはただちに連絡が届くような仕組みこそ必要だ。
そこで提案だ。開発購買やAIの活用で設計のスピードと情報密度が向上しても、その製品データを製造・調達・営業へリアルタイムかつ正確に連携する統合基盤が多くの企業では設計のCADが設計用のPDMに留まっている。調達の見積等のシステムや生産管理、ERP、製造現場のMESとの間でデータが寸断されている。最大の弊害は、設計変更情報の伝達が遅れることだろう。設計者がBOMを書き換えても調達や生産の現場へリアルタイムに伝わらない。部品が変更していれば原価が増減しているはずなのに、それがリアルタイムで把握できない。
PLMはこの情報の壁を取り払う。製品情報をBOMという共通軸で一元管理できる。設計BOMは製造BOMとつながり、調達BOMともつながる。これら密接な同期と統合が、手動入力ミスを根絶し、変更に伴うロスやリスクを最小化できる。

さらにPLMやPDMをERPと垂直統合すればコンカレントエンジニアリングが実現する。かなり理想的な話ではあるけれど、設計者が部材を選ぶ際にERP側から「サプライヤ別調達コスト」「世界各地の在庫・納期」をリアルタイムに引き出してシミュレーションでき、開発初期に製造原価・調達容易性を高精度に作り込める。
個別最適だった技術データとビジネスプロセスがつながると、何が変わるか。調達は量産段階の後追い対応から解放され、開発の初期から意思決定に加われる。設計変更が原価に与える影響も、調達条件や供給リスクも、リアルタイムでつかんで判断を前倒しできる。冒頭に挙げた、旧図面のまま出される見積依頼も、メールの往復に埋もれる確認作業も消えていく。ECMとSCM統合の価値は、システムをつなぐこと自体ではなく、設計・生産・調達が同じデータで同じタイミングで動けるようになる点にある。それこそが製造業DXの真髄である。さらに、現場で「ばかやろう」と叱られ続けてきた男の、せめてもの提案である。
製造業では、設計・開発と調達・生産のデータ分断により、設計変更の伝達遅れや原価把握の不確実性など、意思決定の遅れにつながる課題が顕在化しています。
これからの調達には、開発購買の観点から設計段階と連携し、サプライヤー情報や過去データを活用しながら、部門横断で意思決定できる環境を整えることが重要です。
さらに、設計・生産・調達のデータを一元管理し、リアルタイムに連携できる基盤を構築することで、ECMとSCMを統合し、データ主導型の経営を実現できます。
スマクラBDX 調達購買Webは、見積・取引・サプライヤー情報を一元管理し、設計から調達・生産までをつなぐ業務基盤として、調達業務の高度化と意思決定の迅速化を支援します。
