【特集】 「スーパーマーケット・トレードショー2013」 にてパネルディスカッションを開催

一般社団法人新日本スーパーマーケット協会が主催する、第47回「スーパーマーケット・トレードショー2013」が2013年2月13日から3日間にわたって行われた。その中で、「流通BMS待ったなし!~流通4団体が推進する【スマクラ】は中小SM導入の切り札に~」と題したパネルディスカッションを開催。小売業からヤオコーとセイミヤ、卸売業から伊藤忠食品が参加して自社の導入事例を紹介すると共に、流通BMSの現状と、普及に向けた今後のあり方について議論を交わした。

10年後のスーパーマーケットのあり方を追求

パネルディスカッションの開催にあたり、コーディネーターを務めた一般社団法人日本スーパーマーケット協会 事務局長の江口法生氏が、流通BMSの現状と、同協会が取り組む標準化事業について紹介した。

スーパーマーケットを取り巻く問題の中で、10年代から大きくクローズアップされているのが少子高齢化の影響だ。15年には総世帯数や首都圏人口がピークアウトし、人口減が顕著になると予測されている。消費税率のアップも控え、小売業全体が厳しい状況に置かれる中、同協会では、スーパーマーケット業界の10年後を展望する「シナリオ2020」を作成。7つの課題をピックアップした中に、「新たな通信情報技術の採用によるオペレーションの効率化」と「業界標準の積極的な採用によるサプライチェーンコストの削減」が挙げられていることを明らかにした。

現在、同協会が取り組む標準化事業には、物流クレートの共有化と、流通BMSの普及の2つがある。物流クレートについては同協会で標準の「レンタルデポ」を開発。現在、主要小売35チェーンが採用し、当初の目標値であった日量10万枚を達成しているという。流通BMSについても大手GMSを筆頭に、小売業の流通BMSの導入が本格化している状況を受けて江口氏は「流通4団体がASP型の流通BMSサービス【スマクラ】を提供することで、低価格導入が実現し、導入に前向きな企業が増えている」と語った。

MD戦略に基づき取引先の負担軽減を目指したヤオコー

導入事例の先頭を切って、埼玉県を中心に関東で118店舗を運営する食品スーパーの株式会社ヤオコー 営業企画部 システム管理担当部長の神藤信弘氏が、同社の状況を紹介した。

ヤオコーが流通BMSを導入した背景には、同社のMD戦略との連携がある。従来の価格戦略は、価格の幅をできる限り少なくし、商品のバリエーションを拡大する方向にあった。しかし、時代の変化とともに消費者は「ごちそう商品」と「下限価格の商品」を組み合わせて選ぶ傾向が増えたことから、ヤオコーは価格幅を上下に拡大する戦略に変更する。 そのためには少量多品種の対応が必要で、取引先も増えるため仕入れ先に負担をかけない流通BMSの導入を決断、流通4団体推奨サービス【スマクラ】の採用を決定。12年から切り替えを開始し、同年9月に加工食品、日雑の取引先19社に導入を終えた。13年2月からは、生鮮、チルドの取引先に導入を開始。3月には加工食品、日雑全取引先約65社、11月には生鮮、チルド全取引先約160社への導入を拡大する予定だ。

流通BMS導入のメリットとしては、「通信の一元化」と「通信時間の短縮」の2つを挙げている。同社の場合、取引先の通信先が本社と2つのセンターの3カ所に分かれ、導入以前はその都度通信先を切り替える必要があった。それが流通BMSで通信先が一本化されたことで取引先の負担は大きく軽減できたという。通信時間に関しても、JCA手順を使ってデータの送受信を行うと約1時間を要していたケースでも、導入後は受信時間が5分と大幅な短縮が実現。受信時刻も30分程度前倒しされ、出荷を早めることが可能になったという。

今後について神藤氏は「流通BMSのインフラを活用してPOSデータ、在庫データ、商品マスターデータなど、小売側で提供できるデータを卸・メーカーに対して即時に提供し、最適な棚割りの提案や、製配販での在庫削減に取り組むことで、顧客提供価格のローコスト化を推進していく」と構想を明らかにした。

基幹システムの刷新と同時に流通BMSに移行したセイミヤ

続いて、茨城県と千葉県で17店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社セイミヤの取締役 情報システム部 部長の勢司秀夫氏が、同社の事例を説明した。

セイミヤが流通BMSを導入したきっかけは、基幹システムの刷新だった。西暦2000年問題をきっかけに、オフコンからPCサーバーに切り替えるダウンサイジングを開始。順次リプレースする中で最後に残ったのがEDIシステムだった。そして、JCA手順に代わる次世代の発注システムを検討する中で、流通BMSの導入を決断、流通4団体推奨サービス【スマクラ】の採用を決定する。

流通BMSに切り替えるまでには、慎重に検討を重ねた。06年3月には、経産省と流通システム開発センターが主催する「流通サプライチェーン全体最適化促進事業成果報告会」を聴講。「今回こそは本気ではないかという期待と流通全体最適化の考え方に共感して導入を決めた」と勢司氏。

その後も大手チェーンストアの動向に注目したり、ベンダーから情報を収集したりしながら検討を重ね、10年から本格的な導入に着手。11年8月から本稼働を開始した。流通BMSに対応できない取引先に対しては、補完手段として流通BMSに準拠したWeb-EDIを併用。12年10月時点で流通BMS対応取引先は40社、Web-EDI対応取引先が118社で、BMS化率は金額ベースで50%に達しているという。

導入効果については、仕入伝票の廃止による消耗品費削減、関係要員減による人件費削減、通信時間の短縮と通信費の削減など、EDI化によるメリットを挙げ、流通BMSについては「標準は普及率が高まることによって価値が上がっていく」と強調した。

その一方で、流通BMSの普及によって標準外仕様の問題が明らかになってきたことを指摘。具体的には、メッセージ項目の解釈の違い、伝票納品の継続利用などがあることを挙げて、流通BMS協議会とともに解決に向けて取り組んでいく姿勢を示した。

個別プログラムの開発工数を2/3に削減した伊藤忠食品

卸売業の立場からは、伊藤忠食品株式会社 情報システム本部 本部長の竹腰雅一氏が流通BMSのメリットを解説した。

伊藤忠食品の流通BMSに対する取り組みは早く、経産省が実施した実証実験に06年から参加。07年には取引先4社と流通BMSによるデータ交換を開始している。その後も順次流通BMSによるデータ交換先を拡大。13年2月時点で33社(うち7センター)が対応済みだ。同社ではEDIシステムの運用を効率化するため、サーバー-サーバー型モデルでシステムを構築し、自社で運用を行っている。

流通BMSの導入によって得られた効果について竹腰氏は「取引先ごとの個別プログラムの開発がなくなり、開発期間および開発工数が従来の2/3に削減された」と説明する。また、通信時間の大幅な短縮が実現。ある取引先については、従来50分かかっていた通信時間が、データ量が大幅に増えているにも関わらず約1、2分に激減した。通信時間が短縮した結果、専用センターの場合で、出荷作業への着手が約1時間早まった例もあるという。

一方で、セイミヤと同様、標準外利用が増えていることも指摘。手書き発注に対して出荷データの送信を要求されたり、伝票レスになったにも関わらず伝票と同じ内容の納品明細書を要求されたりするケースもあることを明らかにした。

竹腰氏は、日本加工食品卸協会 システム研究会の座長を務めていることから、同協会の取り組みについても紹介。同協会が年に1回開催している情報システム研修会において、会員企業を集めて流通BMSに関する勉強会を開催して普及を後押ししていると語った。問題となっている標準外利用についても、標準的な運用ルールの取り決めがないものに関しては同協会が調査と情報収集を行い、対応方法に関するセミナー等を実施していく考えを述べた。

意識改革により流通BMSの導入を促進

最後に、コーディネーターの江口氏が、流通BMSの普及状況を紹介。小売業者に実施したアンケートの中で「投資対効果が不明」「取引きできる対応先が少ない」といった意見があることを指摘した。

それに対して伊藤忠食品の竹腰氏は「卸売業の営業担当者まで流通BMSのメリットが浸透していないため、商談の場で流通BMSの話が出づらい状況にあるのかもしれない。そのためにも13年は営業担当者への教育、啓蒙を徹底していく」と語った。

また、普及に向けてセイミヤの勢司氏は「流通BMSは、小売業各社が門外不出のノウハウを持ち寄って最適化した仕組みであり、導入によって必ず効果が得られるのだから、いち早く対応して欲しい」と呼びかけた。

最後に日本スーパーマーケット協会の「情報システム委員会」委員長を務めるヤオコーの神藤氏が「既存のJCA手順は今後も継続し続けることはあり得ない。それならいち早く流通BMSに切り替えてメリットを享受すべきだ。そして情報システム部門として経営力の向上に貢献できる底力があることを見せつけて欲しい」と期待の言葉を贈ってパネルディスカッションを締めくくった。