【特集】 「スーパーマーケット・トレードショー2016」 にてパネルディスカッションを開催

2月10日(水)~12日(金)に、包括名称「FOOD TABLE in JAPAN」として4つの展示会と同時開催された「第50回スーパーマーケット・トレードショー2016」の中で、「流通BMS~せまる発注不全のリスクと流通BMS導入のメリット~」と題したパネルディスカッションが行われた。進行役は、オール日本スーパーマーケット協会の中村伸一郎氏(総務部長)。パネリストには、卸売業から、国分フードクリエイト㈱の高波圭介氏(常務執行役員)、スーパーマーケット業界から、サミット㈱の長尾建氏(情報システム部マネージャー)、地方を代表してスーパーセンター業態の㈱アマノの天野良喜氏(専務取締役)が参加した。



標準化することでメリットが多い流通BMSを今後も推奨

中村氏は、ディスカッションに先立って、BtoBの取引きで、発注のデータ交換を行うために開発された仕組みである流通BMSの普及状態を紹介。

小売業全体では、導入済み38.6%、導入予定15.7%で、50%強の企業が導入。受け手側の卸とメーカーでは、流通BMSに対応済み49.2%、対応予定3.5%を入れて、こちらも50%強。さらに、SM業界に限定すると、導入済み46%、導入予定20%と66%に及び、「SM業界4団体が、3年前から流通BMS導入を推進してきた成果」と強調した 【図表1】。

【図表1】

また、卸業界においては、日本加工食品卸協会の会員は、対応済み、対応予定を合わせて76.1%、全国菓子卸商業組合連合会の会員では84.0%に及び、小売より導入スピードが鮮明であることを紹介。
そして、流通BMS協議会が捉えてきた推進状況 【図表2】 を示し、実際に導入している企業数は、卸・メーカーで8,292社(15年6月)、小売319社(2014年度)で、小規模の小売にも普及し始めていること。さらに、SM4団体が推奨してきたスマクラを100社が導入しており、「商売とは関係ない、受発注では同じ仕組みを使った方が安価で、安心して使えるということで推奨してきた。使用に際してのサポートもしていく」と締めくくった。

また、パネルディスカッションの最後には、軽減税率の話しも出て、各業界とも垣根を越えて取り組んでいくことで一致した。


【図表2】

導入しても卸と小売を繋げていないケースが多いことが課題

パネリスト1番手は、国分フードクリエイト㈱の高波氏で、卸業界の中での流通BMSの取り組みと、課題についての現状をテーマに語った。

日本加工食品卸協会(以下、日食協)は、会員の卸企業が119社、年間の総商高は10兆円に迫る規模を持つ。日食協では、創業以来、様々な業界インフラの標準化を推進してきた歴史を持つ。業界VAN立ち上げ、商品データベース作りなどはその一例だ。
その流れの中で、2013年から、流通BMSの標準化に積極的に取り組んできた。そして、「出荷開始型のメッセージ」や「標準納品明細書」など標準化に資するような流通BMSの改定を申請したり、業界として普及を促進したりするための卸業界アンケートを実施してきたりした、と高波氏は幅広い活動を紹介。

卸業界側からみたアンケート調査で浮かび上がってきた実態の一つが、既に小売業、卸業がともに流通BMSを導入済みなのに、卸業と小売業の間での接続が進んでいないという状況だ。直近の2015年に日食協が実施した、会員の全国系卸23社に対するアンケート調査 【図表3】 では、卸業とEDI接続の小売業1,982社のうち、流通BMS導入企業は280社で導入率は14%。この280社のうち、卸企業10社と接続している小売業は1社のみで、小売業114社は卸業1社としか接続しておらず、卸との平均接続数は2.4社であった。2014年度に卸研が実施した、流通BMS導入済み小売業対象のアンケート調査でも、同様の傾向が見て取れる。


【図表3】

また、情報志向型卸売業研究会「卸研」による、卸業の受発注手段のアンケート調査 【図表4】 では、小売業の社数ベースで、非EDIが83%で、EDIが17% 【EDI取引内訳:流通BMSが6.4%、レガシーが85%、WEB-EDIが8.4%】 であった。


【図表4】

流通BMSが普及してきたといっても実際の運用では、まだ、旧来型のデータ交換が主体になっている現実がある。「もっと流通BMSでの取引を増やしていかなければならないと日食協では位置付けている」と高波氏。
そして高波氏は、2020年にNTTが公衆回線網からIP網に切り替えることを挙げ、「従来のEDIは使い続けることができなくなる可能性がある。日食協では、2020年に向けたレガシーEDIの切り替え促進のための活動を展開していく」として、<小売流通団体との取り組み開始宣言(予定)><日食協会員への取組み依頼(1月に告知済み)><BMS協議会によるマッピングシートチェック体制の支援>の3つを挙げた。

最後に高波氏は、「卸各社に、小売と新規取引を始める時は、2020年問題を踏まえ、最初から流通BMSでの取引を呼びかけている」と語り、日食協から会員卸への依頼文を公開した。


JCAから切り変え取引先とも、社内でもデータ交換がスムーズに

2番目はSMの導入事例で、211年11月より流通BMSを運用しているサミット㈱の長尾氏が登場。同社は、関東1都3県にSM113店舗を展開し、売上高は2,352億200万円(2015年3月末現在)を数える。

長尾氏は、流通BMS導入の背景として、2011年に稼働させた在庫型物流センターと、同年に、基幹システムを、ERPベースの新基幹システに刷新したことを挙げた。同社は、それまでJCA手順のレガシーEDIでデータ交換を行ってきた。しかし、「在庫型物流センターでは在庫管理のために、取引先とのデータ交換が必要ですが、従来のレガシー(JCA手順)では、在庫の項目を持っておらず、在庫管理が難しい。新基幹システムに関しても、様々なシステムと大量のデータの送受信が発生し、高速なデータ交換が必要です。このふたつを機に、流通BMSを導入しました」と長尾氏。
そして、流通BMS導入の目的として、3点を挙げた 【図表5】。
第一は、将来を見据えたインフラ基盤の構築だ。「流通BMSに切り替える前のEDIは、20年前にスタートして老朽化している。インターネットが普及する中、新しい標準を目指そうと考えました」と。第2は、通信網の強化だ。同社は、2011年3月の東日本大震災時に、本部は店舗からの発注は受けられても、本部からVAN会社にデータがなかなか送れない状況が続いた。「この時の経験から、災害に強い通信網の整備を痛感した」と長尾氏。第3は、取引先と協力して社会的責任を果たすことだ。「店舗を拡大していく過程で、新しい取引先も増えるが、フォーマットが共通の流通BMSであれば、短時間のテストで稼働できる。流通BMS導入は、弊社だけでなくお取引様にもメリットがある」と。


【図表5】

また、流通BMS対応前 【図表6】 と対応後 【図表7】 のシステム概要を図で紹介。対応前は、同社の本部とVAN会社3社の間は公衆回線で接続し、VAN会社と取引先との間はJCA手順でやりとりしており、物流センターは、本部との接続のみであった。対応後は、同社の本部と取引先の間にSCSKが入り、流通BMSにより、データを標準フォーマットに変換して、インターネットでスピーディに送受信する。新たに設けた在庫センターと取引先との間も、SCSKを通してデータ交換ができるようになった。


【図表6】

【図表7】

その結果、伝票費用・通信コストなどの費用削減、通信のスピードアップや信頼性の向上、伝票入力作業や仕入れ照会作業の軽減、仕入れ確定の時間短縮、納品精度の向上など、経費削減や業務改善に数多くの導入効果がみられた。
そして長尾氏は、個人的意見としつつ、「BMSはパソコンのOSに例えるなら、OSがWindows98、XPとバーションアップする中、自分だけ古いものを使っていても役に立たず、合わせて変えないと使えなくなるのと同じだ。標準に合わせる必要がある。特に受発注は、競合企業と差別化を図る部分ではない。お互いにメリットがある共通のフォーマットを作り、将来に向けた、安全・安心なインフラを、ともに構築していくことは自然の流れだと思う」と語った。
加えて、思ったほど導入が進んでいない現実を捉え、トップの理解が必要であることを強調した。


2020年問題でJCAを使い続けるリスクを痛感して切り替えを急ぐ

最後は、地方の企業を代表して秋田県から参加の、㈱アマノの天野氏である。同社は、秋田県内にフロア面積3,000坪を超えるスーパーセンター3店舗を展開。「ワンフロア・オールインワン・ディスカウントショップ」がコンセプトで、衣食住に渡り、日常生活に必要なものすべてが揃う、圧倒的品揃えと明確な安さを打ち出している。取扱アイテムは15万SKU、取引先企業は500社に及ぶ。

流通BMSの本格稼働は昨年10月からで、現在、切り替えている最中だ。天野氏は、流通BMS導入前と導入後のイメージを紹介。
従来、受発注のやりとりは、VAN会社を介してのEOS・電話・FAXで行っており、毎日、大量の伝票の処理をしなければならなかった。事務担当者は、終日、入力作業に追われ、入力遅れやミスも頻発したという状況を説明。導入後は、卸やメーカーからの出荷データが、伝票ではなくデータで届くので、コンピュータで自動処理でき、入力作業が大幅に減る見込みであることを報告。
「導入効果が明確に現れるのはこれからだが、我々小売にとっても、卸・メーカーにとってもメリットは大きい」と天野氏。

天野氏は、同社が流通BMS導入を検討した背景として、3つの要因をあげた。第一は、EDI化してペーパーレスを実現し、業務の効率化を図ること。第2は、使っていたVAN会社のシステムにトラブルが生じることが多く、発注データが配信できないという状況を解消すること。第3は、旧来は取引先との接続方法がJCA、またはFAXのみで、取引先から接続方法を選択できるようにして欲しいという要望がでていたことだ。
そして、導入を考える直接のきっかけとなったのは、2020年問題を認識したことであることを明かした。2016年には、JCA手順に必要なモデムなどの専用機器の生産や保守の中止が発生。2017年には、複数税率の導入が予定されているが、JCA手順では対応できない。そして2020年には電話回線が順次廃止され、JCA手順の利用ができなくなる可能性がある。「JCA手順を使い続ける3つのリスクを考えざるを得ない時期にきており、流通BMSへの変え時だと感じた」と天野氏。折から時期を同じくして、同社の基幹システムも更新期を迎え、タイミングもよかったことから、流通BMSへの切り替えをスタートした。
ただ取引先は500社に及び、その大半が中小規模の企業だ。まず、VAN会社を通してEOSでやりとりをしていた企業から、切り替えの申し込みを受け付け、順次切り替えを実施。次いでFAXでやりとりしていた企業で、切り替えが可能と考えられるところに協力を要請した。

導入後は、流通BMSのスマクラを中心にデータで受発注情報をやり取りしつつ、まだ残っているEOS対応企業を、順次、切り替える予定だ。また企業規模や取引量などの関係で流通BMSの導入が難しいところは、今後もFAXを使用することになる。2月末現在で、切り替え済みの取引先は62社。2018年に150社に拡大してJCA手順を廃止する予定だ。最終的にはEDI化180社が目標だ。

進行役の中村氏に、流通BMSを知ったきっかけを尋ねられた天野氏は「地方は情報が少なく、JCAを使い続けるリスクを認識したのも昨年だった。流通BMSもその時に知った。私自身、システム音痴なので、流通BMSの仕組み・サービスの種類・メリット・デメリットなどを勉強した。それにより、適切な経営判断ができた」と述べた。しかし、導入時のハードルを聞かれると、非常にスムーズであったと明かした。

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【導入事例】 株式会社アマノ様 EDI(流通BMS)を活用した業務改善